ストーリー

知られざる「優良Bot(ボット)」の世界

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金曜日, 2021年10月29日金曜日

Twitterのボットと聞いて何を思い浮かべますか?怪しいDMを送りつけてくるスパムアカウントでしょうか?それともフェイクニュースや陰謀説を拡散する、ロシアのトロールファーム(情報工作組織)でしょうか?2016年の米国大統領選挙の期間中、ソーシャルメディア上で展開された偽情報キャンペーンの影響は大きく、大半の人はボットをこうした悪質な活動と結びつけます。それも当然かもしれません。Twitterでは毎月2,500万個もの、怪しいボットやスパムアカウントが検出されています。2020年の後半には1億4,300万回ものスパム防止策がアカウントに対して実施され、結果として利用者からのスパム報告件数が同年の前半に比べて約18%も減少しました。

Twitterにはこうしたアカウントを見つけて削除する、専門の取り締まりチームがいます。とはいえ、すべての自動アカウントを片っ端から削除すればいいかというと、そう単純にはいきません。

ボットの種類はさまざまで、一概に悪とは言えません。たとえば、新型コロナワクチンの接種情報や地域の地震情報を教えてくれるボットや、美しい名画をツイートするアート系ボットなどをフォローしている利用者もいるでしょう。だからこそ、こうしたボットが何を目的としているのかと同じくらい、フォロワーにどのような印象を与えるのかが重要になってきます。 

そこで登場するのがOliver Stewartです。Twitterのアイデンティティおよびプロフィール部門のリードリサーチャーとして、StewartはTwitterではどのように相互の信頼が育まれ、自動アカウントはそうした信頼性にどういう影響を及ぼすのか理解しようと考えました。 

「Twitterには、人の役に立つボットもたくさんあります」と、Stewartは言います。「だからこそ、利用者が便利なボットを見極めて、より安心してTwitterを使えるよう、私たちはそうしたボットが与える印象について、もっと理解する必要がありました」  

Stewartのチームは、情報発信者の身元が明らかなほど、内容の信頼性も増すことを突き止めました。利用者は何よりもまず、そのアカウントが人間なのかロボットなのかを見るのです。ボットに関する問題の解決を後押しするため、Twitterでは先ごろ、新しいラベルを導入しました。プロフィール内にロボットのアイコンとともに「自動アカウント」と明記し、ボット作成者の個人アカウントをリンクすることで、そのアカウントがボットであることを利用者に伝えているのです。「こうしたラベル付けには、単にボットだと知らせるだけでなく、誰が、どういう意図で作ったボットなのかを伝えるという側面もあります」と、Stewartは言います。「事前調査の結果を見るかぎり、この新しいラベル付けにより、利用者はこうした便利なボットをより信頼しやすくなると考えられます」  

ではなぜ、すべてのボットを排除せずに、わざわざラベル付けするのでしょうか?

「自動アカウントを持つこと自体は、悪いことではありません。ニューヨークで好評だったワクチンボットのように、有益なボットもありますから」と、ボットラベルの開発とテストを担当した、シニアプロダクトマネージャーのDante Clemonsは言います。ちなみに前述のボットは、16万人のフォロワーに新型コロナワクチンの接種情報をツイートする、 Turbovax のことです。「こうしたアカウントが、ボットに対する認識を変えるのに役立つのではないかと考えました」 

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もっとも、ラベルはボットの良し悪しを決めるものではありません。それが自動アカウントであることを利用者に伝えるだけです。「Twitterのルールを守っている限り、どんなボットもウェルカムです。ルールを守らないボットに対しては、Twitterから排除するための対策を積極的に行っています」と、Clemonsは言います。

ボット開発者の知られざる苦労

Clemonsはまず、小規模な実験に取りかかりました。Twitterが関係を築いてきた10人の開発者に協力を仰ぎ、彼らが作った532個のボットアカウントにラベルを付けたのです。そのうち約500個のボットは、アーティスト兼ボット開発者のAndrei Taraschukが手掛けたものでした。 

コロラド州ボルダーに暮らすソフトウェアエンジニアのTaraschukは、自身の美術愛をフォロワーと分かち合うべく、アート系ボットを作り始めました。芸術一家に生まれ、自身も画家であるTaraschukのアート系ボットは、Twitter社創業者のJack Dorseyも含む、400万人以上のフォロワーを抱えています。Taraschukは開発パートナーのCody Braunとともに、自分たちの余暇と資金だけを使って、メトロポリタン美術館、シカゴ美術館、グッゲンハイム美術館などのコレクションを世に広めるボットを生み出したのです。 

「人間のほうが信頼できるし、人間とやり取りするほうがいい。一般的にはそう思われがちですが、アートに関しては当てはまりません。人間の場合はどうしても、個人的な好みが入ってしまいますから」と、Taraschukは言います。「​​むしろさまざまなケースにおいて、ボットは人間より優れています。ボットは決して忘れませんし、いくらシェアしても疲れません。シェアした内容も正確に覚えています」 

こうしたアート系ボットでは毎月、約25万もの作品をツイートしています。2021年の9月には約300万回のいいねと、1万件のコメントがつきました。人間には対処できない数のコメントですが、ボットなら対処することができます。 

Taraschukはボットのラベル付けにより、利用者の自動アカウントとの接し方を変えられると言います。とりわけ、人間のように見えるボットでは効果的なようです。「たとえばモネのボットを、モネ本人のアカウントと思ってフォローされても困るわけです」

​​TaraschukがTwitterの開発者の渉外交渉チームに初めて連絡を取ったのは、2016年アメリカ大統領選の期間中、自身のアート系ボットが一晩ですべて削除されたときでした。ちょうど大半の自動アカウントが、選挙妨害やデマの拡散と結びつけられるようになった時期です。Taraschukはボット擁護のために声を上げた最初の一人であり、ボットの可能性を訴えるべく、Twitterの各チームと対話を重ねていきました。 

「Twitterを説得する長い旅が始まりました。『私はロシア人で、ロシア人は有害なボットを作っていることで有名です。しかし、ボットにはTwitterに文化をもたらしている側面もあるんですよ』といったふうに、ボットの価値を浸透させていったのです」と、Taraschukは当時を振り返ります。 

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Twitterをより幅広い層に使ってもらおうと、ボットを作った開発者もいます。 Hannah Kolbeckは、 Alt Text Reminder や Alt Text Crew といったボットの生みの親で、ボットのラベル付け実験にも最初から関わっています。オレゴン州ポートランド在住のソフトウェアエンジニアであるKolbeckは、自身も参加する地元のTwitterコミュニティでの活動から、これらのボットのヒントを得ました。Alt Text Reminderは、フォロワーが説明なしの画像をツイートした場合にDMを送り、そのツイートに代替テキスト(ALT、視覚障がいのある方にもどのような画像か分かるよう、スクリーンリーダーが読み上げることができる画像の説明文)を追加するようリマインドします。 

Kolbeckは、ピューリッツァー賞にも輝いたオレゴン州の日刊紙オレゴニアンのツイートに対し、画像に代替テキストを含めるよう@ツイートでリマインドするボットをプログラミングしました。その甲斐あって、オレゴニアン紙のツイートの75%以上に代替テキストが追加されるようになりました。

「アクセシビリティを考慮しないビジネスは、見直す必要があると思います」と、Kolbeckは言います。「画像を見られない人たちにも、オレゴン州での一般的な生活を楽しむ権利はあるのですから」

KolbeckもTaraschukと同様、ボットのラベル付けを気に入っています。彼女のボットを本物の人間だと勘違いする人が多かったからです。「『すべての投稿によく対応できますね?』とか『他にやることがないんですか?』などと言われ、そのたびに、いやいやボットなので、と思っていました」 

信頼性と安全性の両立

ボットの素性を明かすことで、利用者からの信頼性は少し増すだろうと、Kolbeckは考えています。とはいえ、そういったプラス面がある一方で、リスクもはらんでいると見ています。Kolbeckが例に挙げたのは Editing the Gray Ladyという、ニューヨークタイムズ紙が見出しや記事を修正するたびにツイートするボットです。Kolbeck自身はこのボットの作者を知りませんが、こうした​​人気アカウントでは開発者が嫌がらせを受けかねないと危惧しています。

この辺りのバランス取りもまた、Twitterの運営チームに託された課題と言えそうです。身元確認と安全性のどちらを優先させるかは、常に悩ましい問題です。Twitter社に加わってまず、利用者に実名の使用を義務づけるべきか調査したStewartは、 匿名での利用 を認めていることこそ、Twitterの強みの一つだと考えています。 

「Twitterには、たとえば『私はコロラド州に住んでいる、ストレートの白人男性のOliver Stewartです』といった情報を公開することで、その人の身元を認証する仕組みがありません。多くの人はそういった情報を公開すれば、安全に意見を述べることが難しくなるからです。特に偏見の目でみられがちなコミュニティやマイノリティの人々、活動家やジャーナリストたちにとっては困難なことでしょう」と、Stewartは言います。「だからこそ、Twitterでは人種や名前や居住地といった個人情報に依存しない、もう一つの本当の自分の姿で活動できるようにしているのです」

ボットのラベル付けは、Twitter上のさまざまな声を支援し、発言の場を提供するという、より大きな目標と連動する取り組みだとStewartは言います。「身元を明らかにすることで、開かれた場での会話はどう変わるのか。届けられるべき声は届くのか。公正を保つためには何ができるのかを考えることが大切です」

またStewartは、ボットのラベル付けは青色の認証バッジとは違い、Twitterによるお墨付きではないと念押しします。「こうしたラベルを通じて、良質なボットであるという主観的な評価を伝えたいわけではありません。そのボットが害のない自動アカウントと考えられる、そしてその所有者はボットであることを公表して利用者への誠意を示していると、伝えたいだけなのです。何を信じるか信じないかは、周りが押しつけることではありません。そういった判断を自身で下せるツールを利用者に提供することが、私たちのゴールなのです」

実験の初期段階における開発者たちの反応は、総じてとても好意的だったとClemonsは言います。そして2022年の始め頃には、より多くの自動アカウントにラベルが付くようになると付け加えます。いずれはすべてのボット開発者が、自分で自動アカウントのラベルをつけ、プロフィール内に個人アカウントへのリンクを貼れるようになります。「優良ボットのために状況を改善していくことが、結果的に悪いボットを追い出すことにつながります」と、Clemonsは言います。「ボットのラベル付けはそういった意味で、長期的な解決を見据えた戦略と言えるでしょう」

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