2011年3月11日に発生した東日本大震災から、まもなく10年が経過しようとしています。今なお余震と思われる地震が発生するなど、3月11日は決して「過去」ではありません。
日本は地震大国であり、自然災害の多い国だと言われています。ここ数年を振り返るだけでも、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、東日本台風(2019年)、熊本豪雨(2020年)など、様々な自然災害が私たちの街を襲っています。
被災時の情報収集において、もっとも利用される手段の1つがSNSです。自治体の発信する情報だけでなく、同じく現地からリアルタイムに届く「あの道は通れない」「あの避難所ではアレが足りない」などの詳細情報、あるいは「被災したので助けてほしい」というSOS投稿が注目を集めます。もはや、SNSは災害発生時になくてはならない存在と言えるでしょう。
災害時のSNS利用については様々な視点で分析や提案がなされていますが、今回JX通信社は、少し切り口を変えて被災時の「食事」に関する投稿に注目しました。自宅で、避難先の体育館で、身を寄せた友人、親戚宅で、人々はどのような食事をとったとツイートしていたのでしょうか。「食事」に関するツイートを通じて、この10年間の自然災害について考えます。
自然災害別に見る「食事」に関するツイート件数の推移
上に例示した5つの自然災害(東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、東日本台風、熊本豪雨)について、発災翌日から6日後までの期間で「食事」に関連するツイート(リツイートを除く)を収集したところ、合計約6万件にのぼりました。
自然災害ごとに件数の推移を示したのが以下のグラフです。
東日本大震災や熊本地震では、「食事」に関するツイートが日々増え続け、どちらも2万件以上のツイートが確認できました。一方、西日本豪雨、東日本台風、熊本豪雨では「食事」に関連するツイートは少なく5000件程度、熊本豪雨ではそれを大幅に下回っています。
この違いは「突発性」で説明が可能だと考えます。 予報技術の進展に伴い豪雨・台風の兆候が掴みやすくなったため、避難もある程度は前倒しできるようになりました。一方で地震は予兆を掴みにくく、充分に食糧を確保しながら避難するのが難しかったのではないでしょうか。
ちなみに、東日本大震災は被害が広範囲に及びましたが、ツイート件数は熊本地震と同程度でした。これは2011年というタイミングが影響しているかもしれません。現在のようにTwitterが社会インフラとして浸透した状態であれば、はるかに多くのツイートが見られたのではないでしょうか。
温かい食事についてのツイートから見えたこと
同じ「地震」の括りで見て、東日本大震災と熊本地震で違いは見えるでしょうか。東日本大震災における「食事」に関する教訓は、後の地震災害にどのように生かされているかを知るために、ツイートを1件ずつ目視で確認しました。その結果、「温かい食事」がひとつのキーワードであることが分かりました。
時系列でツイートを追うと、およそ以下のような傾向です。
ちなみに、震災から2週間以上経過した28日〜29日時点でも「カップラーメンばかりでおかずが食べたい」「おにぎり以外を食べた(=それまでおにぎりのみだった)」というツイートがありました。
これらの事実から推察すると、被災地域が広範囲なため、その隅々まで食材が行き渡るには時間がかかったことが伺えます。
一方で熊本地震の場合、東日本大震災と違い、およそ以下のような傾向だったと分かりました。
東日本大震災と違い、比較的早期に温かい食べ物が被災地全体に行き割っているようです。地震の被害が熊本県周辺にとどまっていたため、物資をある程度円滑に輸送できたこともあるでしょう。また、まだ気温の低い3月に東北地方を襲った東日本大震災の時と違って、4月中旬の熊本での地震では温かい食事でなくてもしのぎやすかったと言えるかもしれません。
温かい食事に関するツイートだけをとってみても、日本の災害は季節、交通網、災害の規模や影響範囲など状況がそれぞれ異なることが推察できます。様々な条件下で求められること、できることはその都度異なり、知見や経験を継承していく難しさもありそうです。
「温かい食事」の鍵を握る炊き出し
避難所での温かい食事と聞いて思い浮かぶのは「炊き出し」です。人々は困難な状況下でどうやって「炊き出し」をしているのでしょうか。
そもそも炊き出しとは、困窮した状況下にある多数の人々を対象に、料理やその他の食料を無償で提供する行動を指します。16世紀末のイギリスでこうした活動が記録に残っており、のちに救貧法が制定されるきっかけの1つにもあり、諸外国が福祉制度導入にあたって参考にしたともいわれています。
日本においては、古くは光明皇后における悲田院(8世紀)のような施し型が起源だそうですが、住む家を失った人に対して「飯を炊いて出す」から「炊き出し」として定着しました。
そんな「炊き出し」は東日本大震災直後から、ツイートされていました。数日経ってからは、その数は4〜5倍に増えます。「地震以来初めて温かいものを口にできた」というコメントの通り、炊き出しは「温かい食事」を代表する役割を担っていたようです。
一方、熊本地震では以下のような積極的のような情報発信が目立ちました。
東日本大震災からSNSの活用が浸透し、ハッシュタグを使ったり飲食店や企業がTwitterを使って食事に関する情報を提供するなどして、よりきめ細かい情報が行き渡るようになってきたようです。当時は炊き出し状況も分からず「あそこの避難所では…」という噂話という程度だったようですが、熊本地震ではSNS上で多くの人々の目にふれることを目的としたツイートがありました。2011年にはあまり見られなかった光景と言えます。
まとめ
東日本大震災からの10年で、災害時の「食事」のあり方は変化していると定性的な分析から明らかとなりました。「温かい食事」と「野菜」はツイート一つひとつを深く見るまで気付きかなかった点でした。
防災の世界で「レジリエンス」という言葉があります。衝撃に対処する能力であり、回復力や復元力といった言葉が意味合いとして近しいかもしれません。
東日本大震災を被災したある人のツイートが特徴的です。「昨日はお菓子しか食べれなかった」というツイートからはじまり、「今日はおにぎり一個とインスタントラーメンを共有して食べました」そして「生きていける!元気でてきた」と続きます。
苦難において、人はさまざまなことをツイートし、生きる力に直接つながる「食事」についての会話も止まることはありません。「変化のある食事」「温かい食事」が人に与える活力、それを提供しようと支える人たちの行動力という、災害の多いこの国に住む私たちの「レジリエンス」をツイートから見ることができたように思います。
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